読書

北村薫「朝霧」(創元推理文庫)*1

連作中編ミステリ3編。円紫さんと「私」シリーズ最新作。文庫化を待っていたら随分と間が空いてしまった。「私」の髪が期待したほど伸びていなかったので残念――などという戯れ言はともかく、表題作「朝霧」。覆面作家シリーズ最終話「夢の家」と似た題材なが…

奈知未佐子「妖精のネジ」(小学館文庫)*5

一話一話があたたかい/てのひら大のおとぎ話(文庫帯より)――掌編メルヘン漫画25編*1。今となっては、一気に読了してしまったことが悔やまれる――寝る前に1編ずつ読むようにしていれば、少なくとも1ヶ月間は優しい夢を見られたのに。 *1:あえて1つを挙げるな…

堀辰雄「風立ちぬ・美しい村」(岩波文庫)*6

先日のセカチュウから何となく連想されたので「風立ちぬ」*1。ただ、後者には淡々とした中にも切実な緊迫感がある。日記形式になる後半以降は、特に。 *1:共通項=死をテーマにした恋愛モノで、回想主体の淡々とした語り口……?

片山恭一「世界の中心で、愛をさけぶ」(小学館)*9

ベストセラー。Amazonの酷評が気になって仕方がなかったので、ぱらぱらと立ち読んでみた*1。なるほど、ストーリーはまさに陳腐で強引、余白の割合はラノベ並み。とはいえ、映画や漫画の原作とする分には潔い感じに盛り上がりそうな好印象。地味だけれど。い…

加納朋子「月曜日の水玉模様」(集英社文庫)*11

連作短編ミステリ7編*1。加納作品らしく人物の設定が少女漫画っぽい。螺旋階段のアリスと同様、探偵役と助手役の区別が曖昧な配役。第3話「水曜日」の2段(3段?)オチに惚れた。 *1:心の底から無邪気で夢一杯の古典SFなどに浮気していた所為で、日常系ミス…

ジェイムズ・P・ホーガン「星を継ぐもの」(創元SF文庫)*3

SF長編。SFにして本格ミステリ(文庫帯より)との触れ込みだったので、夏への扉のときの反省から今回は巻末の解説を読まずに本文へ……なのに、残念ながらミステリとしては拍子抜け。伏線や誘導があからさますぎて、簡単にオチが読めてしまう。とはいえSFのワ…

フローベール「紋切型辞典」(岩波文庫)*4

愚か者:あなたと同じ考えを持たない人のこと――19世紀のフランス社会を痛烈に風刺した未完の辞典。世相の違いから理解不能のネタが多いものの、巷の「紋切型辞典」「悪魔の辞典」の類が好きな人なら楽しめるはず。個人的には、毒が強すぎて辟易することもし…

三谷幸喜「気まずい二人」(角川文庫)*5

対談(戯曲形式)14編。人気脚本家*1にして極度の話下手でもある著者が、ひたすらテレビ界の有名人(女性限定)と対談して生来の上がり症を克服していく治療過程の記録でもある*2。終始間の悪い著者、対応に困るゲスト――とにもかくにも、出演者をこれほど身…

ロバート・A・ハインライン「夏への扉」(ハヤカワ文庫SF)*8

世のなべての猫好きにこの本を捧げる――SF長編。これまでSFはあまり読んでこなかったので*1、今頃になってSF史に輝く名作に触れる。しばらくはこのジャンルに傾倒しそうな気配。ただ、「訳者あとがき」を先に読んでしまうと、ミステリ的な謎をさらりと種明か…

加納朋子「螺旋階段のアリス」(文春文庫)*4

連作短編ミステリ7編。脱サラ探偵と押し掛け美少女助手。キャロルの不思議の国/鏡の国のキャラクターをモチーフに――との触れ込みに惹かれつつ読んだものの、所々に登場するアリスネタには若干の唐突感を覚えてしまう。とはいえ、この作者らしく悪人不在の優…

黒田硫黄「茄子」(アフタヌーンKC)*5

「茄子」をテーマにした連作短編漫画集。映画「アンダルシアの夏」原作、宮崎駿も絶賛――などという能書きはさておき、これを読めば「一富士、二鷹、三茄子の『茄子』って、いったいどんな夢なんだ」という積年の疑問が解決するばかりか、「来年は茄子の夢が…

佐藤雅彦「プチ哲学」(マガジンハウス)*6

南海の底にて、魚の恋人達「こんな広い海の中、君に出会えてなんて僕は幸せなんだ」捕らえられた狭い水槽の中「大好きな君といつも一緒にいられてなんて僕は幸せなんだ」――雑誌「オリーブ」連載、絵物語31編+中川いさみとの対談。 「広告の人」と聞くと佐藤…

Joshua Piven and David Borgenicht「The WORST-CASE SCENARIO Survival Handbook」(CHRONICLE BOOKS)*8

Amazonで洋書が買い得だったので衝動買い。水没する自動車からの脱出法*1とか、ワニとの戦い方とか、銃弾の避け方とか、様々な危機的状況に対処するための専門家による解説。図解付きで非常に分かりやすく、束の間のサバイバル気分を楽しめる。続編の「旅行…

いしいひさいち「忍者無芸帳――眠れる森の忍者」(双葉文庫)*1

忍者ネタ4コマ漫画傑作選。古い4コマは一般に時事ネタを風化させてしまうものだけれど、これは舞台とキャラクターが時代モノであるだけに、そのミスマッチ感が奇妙な普遍性を生んでいるような気がしてならない。前提知識として、忍者漫画の古典「カムイ伝」…

トマス・バーネット・スワン「薔薇の荘園」(ハヤカワ文庫SF)*3

中編ファンタジー3編。初出は1960年代。異世界RPGよりもむしろ神話や民話からファンタジーに触れた身としては、現代ファンタジーの原点としてよく引き合いに出される「指輪物語」よりもこちらの方が馴染みやすい。実在の歴史の狭間に幻獣や妖精を組み入れる…

シェイクスピア「マクベス」(新潮文庫)*4

人としてこれくらいは読んでおかなくてはなっ、と積んでおいた内の一冊。シェイクスピアの戯曲くらい有名になると、粗筋が流布しているので(読んだことがなくても)知っている気分になってしまう。しかし、一読して自分の誤解を痛感。彼は文学者ではなく劇…

乙一「GOTH」(角川書店)*7

連作短編6編。第3回本格ミステリ大賞受賞作との触れ込みながら、乙一流の「なんでもあり」というかジャンル分け不能。雑誌掲載分の2編、主役2人のキャラクターが魅力的だったので単行本に手を出す。しかし書き下ろしの4編ではその魅力が半減気味。清冽な印象…

加納朋子「いちばん初めにあった海」(角川文庫)*8

中編ミステリ2編。巷では2編の融合が云々という噂だけれど、どこか物足りない感じ。私的加納ベストはやっぱり「ななつのこ」。というか、この作者の描く男性キャラクターはみんな少女漫画っぽいぞ。

土屋賢二「猫とロボットとモーツァルト 哲学論集」(勁草書房)*2

哲学読み物7編。表題にもなっている「猫とロボットとモーツァルト」とか「だれもいない森の中で木が倒れたら音が出るか」とか、割と有名なテーマだし、タイトルを眺めただけでもドキドキするのだけれど……うーん、知恵熱が。