読書

大森望(編)「ここがウィネトカなら、きみはジュディ」(ハヤカワ文庫SF)*1

短編SF13編。SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー/時間SF傑作選、と表紙に書いてある。やっぱり、時間ロマンスは良いなぁ……胸がキュンキュンする。テッド・チャンが目当てで購入したのだけど、読了したいまの感想としては、バズビイの表題作が最も好き。…

東川篤哉「もう誘拐なんてしない」(文春文庫)*2

ミステリ長編。ヤクザの娘(女子高生)を攫ってあれこれしちゃうお話。GWに3日連続で東川作品を読んでみて、今のところこれが一番好き。お嬢様+執事モノも良いけれど、へっぽこヤクザモノも好きなので。なんだか、この作者の語り口はこの手の愉快なヤクザ一…

東川篤哉「交換殺人には向かない夜」(光文社文庫)*3

ミステリ長編。この作者お得意の(?)語りとキャラクターは昨日に引き続き割と好きなのだけれど、肝心のミステリが……なんといったらいいのか。巧妙に伏線が張り巡らされているのは分かるのだけれど、その伏線が「わざと」理詰めで解けないようにされている…

東川篤哉「謎解きはディナーのあとで」(小学館)*4

短編ミステリ6編。お嬢様+執事モノと聞いてしまっては、個人的に読まないという選択肢はない。第1話のトリックなどはビジュアル的に面白いし、お嬢様がメガネっ娘になるくだりなどは萌えなくもないし、言葉遊びとオヤジギャグを足して2で割ったような地の文…

高世えり子「理系クン」(文藝春秋)*1

日常ネタ漫画。登場する「理系クン」がものすごくコテコテで、理系の人々より10倍濃いくらいなのだけれど*1。理系ラブな著者の視点でひたすら絶賛しまくっているので、もうファンタジーとしか思えません。世の理系諸氏は一度このくらい肯定されてみたいと考…

よしたに「理系の人々」(中経出版)*2

日常ネタ漫画。半分くらいしか当てはまっていなかったので私は理系じゃないというべきか、半分も当てはまっていたので私は理系だというべきか……*1 *1:そういえば、母校の物理の先生いわく「事故って空中に投げ出されてから地面に激突するまでの間にニュート…

畠中恵「しゃばけ」(新潮文庫)*4

時代ファンタジー長編。日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作にして町人&妖怪で大江戸捕物帳なおはなし。妖怪や江戸に対する認識・前提知識が作者の想定とぴったり合っていたのか、元々わりと妖怪好きだったこともあってものすごくすっきり読めた。江戸妖…

伊坂幸太郎「重力ピエロ」(新潮文庫)*5

ミステリ長編。放火事件とグラフィティ・アートと家族の過去が絡み合って色々するストーリー。伊坂作品は軽妙で良いなぁ。まだ2冊しか読んだことないけど。ただ、ラストの一文は(巻末の解説で絶賛されているけど)あまり決まってないと思った。

伊坂幸太郎「アヒルと鴨のコインロッカー」(創元推理文庫)*6

ミステリ長編。現在と2年前のストーリーが交互に進んでいって最後に種明かし、というある意味ではオーソドックスな構成。実際のところ、妙なキャラクターと妙なストーリーのせいで「ひょっとしてこれは普通のミステリじゃなくて、オチなんてないのでは……」と…

大槻ケンヂ「新興宗教オモイデ教」(角川文庫)*1

電波ファンタジー長編……や、ジャンルの表記がこれで適切なのかどうか自信がないのだけれど。妄想ウジウジ少年がちょっと電波な少女に勧誘されて電波な世界へGO! というストーリー。思春期の頃に初めて読んだときは登場人物たちにどうにも共感できる要素がな…

林真理子「anego」(小学館文庫)*7

恋愛ホラー長編。篠原涼子主演のドラマの原作。前半は三十路独身OLがセフレと一悶着起こしたり年下の男と遊んだり見合いしたり不倫したり……という具合で「どこの昼ドラだよ」とウンザリしながら読んでいたのだけれど。後半、サイコさんが登場してから俄然面…

鯨統一郎「浦島太郎の真相」(KAPPA NOVELS)*8

短編ミステリ8編。この作品は、ミステリ部分、昔話の新解釈部分、昔のテレビ番組などのなつかし話部分と、三つの要素から成り立っていますが、その三つがお互いに少しも関連していないという珍しい構成をとっています(カバー折り返しより)――という作品形態…

宮部みゆき「理由」(朝日文庫)*1

ミステリ長編。ノンフィクションの手法を使って心の闇を抉る宮部みゆきの最高傑作(裏表紙より)――ルポルタージュ形式で事件を記述するという試みは確かに面白いし、宮部作品のくどくどした心理描写が苦手な読み手としてはそうした描写の少ない本作は嬉しい…

東野圭吾「秘密」(文春文庫)*2

ファンタジー長編。実は、今回が初めての東野圭吾*1。交通事故が原因で娘の身体に母親の心が乗り移ってしまうというベタな設定ながら、序盤に登場した小さな「秘密」が最後の最後で本作最大の「秘密」へ繋がる構成は流石に上手いなぁ、の一言。読みやすく分…

鯨統一郎「なみだ学習塾をよろしく!」(NON NOVEL)*3

連作短編ミステリ7編。シリーズ3作目。天才サイコセラピスト波田煌子が今度は学習塾に乗り込み(乗っ取り)、思春期の少年少女たちを取り巻く謎を解きまくる。第1作、第2作に続き、やや惰性で読んでしまった。主人公の性格が性格だけに、やっぱり日常系の謎…

仁木英之「飯綱颪」(学研M文庫)*3

歴史ファンタジー長編。下町に流れ着いた記憶喪失の大男をめぐって、善良な長屋の住人たちが某藩の裏事情に巻き込まれていく――というストーリー。登場人物がやたらと多いうえ場面ごとに視点がころころと変わるので若干読みにくいのだけれど、それを気にしな…

ロバート・J・ソウヤー「イリーガル・エイリアン」(ハヤカワ文庫SF)*4

SF長編。人類とのファーストコンタクトに成功したエイリアンがあろうことか殺人罪に問われてカリフォルニア州の裁判に掛けられるという、ちょっと画期的な法廷モノ。「シンプソン事件」など実在の固有名詞が作中しばしば引き合いに出されていて*1、昨今話題…

北村薫(編)「謎のギャラリー こわい部屋」(新潮文庫)*5

怪談アンソロジー。掌編から中編まで全18編。南伸坊のコミカルな漫画で幕を開き乙一のデビュー作で締め括る構成。古今東西の作品が収められていて多種多様な「こわさ」が味わえる。個人的な推薦作は樹下太郎「やさしいお願い」*1かな……や、それより編者の読…

レイナルド・アレナス「夜明け前のセレスティーノ」(国書刊行会)*6

――長編。作中を満たす奇天烈なビジョンが幻想なのか暗喩なのか、巻末の解説を参照すれば色々と解釈できそうなのだけれど。難しいことは考えず「そういうもの」として楽しんだ。ミステリ向けの論理脳を捨て、SF向けの科学脳を捨て、ファンタジー向けの幻想脳…

仁木英之「僕僕先生」(新潮社)*7

ファンタジー長編。日本ファンタジーノベル大賞受賞作にして、ゆるゆる系中華ファンタジーの快作。全体、私は中華ファンタジーが好きなのだ*1。中高生向けなのか、易しい文体で読みやすく書いてある一方、それっぽい四字熟語で軽く中華スパイスを効かせてい…

石持浅海「月の扉」(光文社文庫)*1

ミステリ長編。主人公たちがハイジャック事件を起こしている最中の機内で、ハイジャックとは関係のない謎の殺人事件が起きてしまう――というエキサイティングな筋書き。「本格」の定義は良く分からないけれど、機体=閉鎖空間、機内のトイレ(殺人現場)=密…

乙一「夏と花火と私の死体」(集英社文庫)*4

中編サスペンス2編。やはり、表題作が凄い。先日の宮部に引き続いて異色な一人称なのだけれど、今回の語り手はさらに濃くて、物語の冒頭で殺害された少女(9歳)。特に幽霊になったという描写がある訳でもなく、生前と死後でまったく空気を変えずに淡々と――…

宮部みゆき「パーフェクト・ブルー」(創元推理文庫)*5

ミステリ長編。とにもかくにも、語り手が「犬」という設定がコミカル*1。ときに感情移入しながら、ときに微笑ましく見守りながら、付かず離れずの距離感で物語を味わえる。それから、宮部の長編デビュー作とのことで「っぽいなぁ」と思う箇所が結構――個人的…

大平健「診療室にきた赤ずきん」(新潮文庫)*7

精神科医によるノンフィクション16編。「赤ずきん」や「ももたろう」といった童話を巧みに使って次々と現れる患者を治療していく、というストーリー。患者自身が自分を取り巻く複雑な状況を理解するための手助けとして子供向けの物語が非常に役立つらしい。…

若竹七海、ほか「競作 五十円玉二十枚の謎」(創元推理文庫)*3

競作ミステリの問題編と解答編×12。以前から興味津々だったのだけれど、ようやく読んだ。毎週土曜に書店で五十円玉を千円札へ両替する怪しい中年男に遭遇した体験を元にして、二つの謎: なぜ本屋で毎週五十円玉を千円札に両替をするのか その五十円玉はどう…

グレッグ・イーガン「祈りの海」(ハヤカワ文庫SF)*2

短編SF11編。長編も良いけど、短編はネタの純度が高くて良い。特にラストの2編はイーガンっぽさ*1が凝縮されてる感じ。 でも、これは、読む順番を間違ったのかなぁ……短編だけに、ストーリーの盛り上がりやラストの爽快感はどうしても弱め。無意識のうちに既…

鯨統一郎「新・世界の七不思議」(創元推理文庫)*4

連作短編歴史ミステリ7編。おなじみの宮田六郎がストーンヘンジやピラミッドなど古代史の謎を解きまくる。前回の日本史編と比較すると、今回の世界史編は少し勢いが弱め。定説を打ち破る形式の前作と比較して、今度はそもそも定説の存在しないテーマなので何…

森昭雄「ゲーム脳の恐怖」(生活人新書)*3

幻想長編。今更ながら恐る恐る読んでみたのだけれど……凄い。予想を上回る面白さ。脳科学の見識がないと騙されちゃうんじゃないかなー、なんて心配は本当に無用だった。アクロバティックな飛躍の畳み掛けに、連想したのはネウロ。「脳」しか合ってないじゃん…

鯨統一郎「邪馬台国はどこですか?」(創元推理文庫)*9

連作短編歴史ミステリ6編。邪馬台国や聖徳太子、明治維新など小学生でもよく知っている歴史と文献をネタに「邪馬台国は東北にあった」などの新説を展開していく。全編がバーのカウンターで交わされた歴史談義として描かれていて読みやすい。奇説を傍証と理屈…

宮部みゆき「龍は眠る」(新潮文庫)*10

ファンタジー長編。嵐の晩に起きた死亡事故、超能力を持つ少年、雑誌記者である主人公。大きく広げられた事件が綺麗に着地しているし、超能力者が端的な超人ではなくそれなり苦悩する存在として描かれていて、これがもし巷のライトノベルだったとしたら充分…