乙一「夏と花火と私の死体」(集英社文庫)*4

中編サスペンス2編。やはり、表題作が凄い。先日の宮部に引き続いて異色な一人称なのだけれど、今回の語り手はさらに濃くて、物語の冒頭で殺害された少女(9歳)。特に幽霊になったという描写がある訳でもなく、生前と死後でまったく空気を変えずに淡々と――なおかつ子供らしくて微笑ましい調子で――ストーリーが綴られていく。過剰なくらいに「日常」の言葉を多用して「非日常」を描き切る、という乙一イズムはデビュー作にして既に完成の域かも。オチの唐突感と説得力も含めて。差し当たり、これを読んだ勢いで「死体萌え」のような発言をして顰蹙を買わないように注意したいところ。一方、B面の「優子」は、うーん……乙一流の語り、珍妙さ、コミカルさに欠けている気がする。乙一のサスペンスからこの空気を抜くと、御都合主義の無理矢理感がどうしても残ってしまうのだ*1
それから、恐らく大勢の人々が既に主張していることだと思うのだけれど――16才のときに書いたデビュー作でこれかよっ。うーっ。ふかーっ。

*1:乙一の凄いところは「『運が良かったので』助かりました」のような身も蓋もない展開が不思議な説得力を持ってしまう点だと思っている。それが顕著なのは、表題作のほかに「ZOO」(ISBN:408746038XISBN:4087460371)収録の短編など。