朔立木「死亡推定時刻」(光文社)*6

個々には忠実な一線級刑事の職務執行から冤罪が生まれるリアルな内幕を描く(カバー折り返しより)――ミステリではないけれど、ものすごくサスペンス。ラストに登場する老弁護士の『禍福はあざなえる縄の如し』という台詞がこの小説を端的に表現していると思う。被害者一族に渦巻く確執、冤罪犯の無知、上層部の保身、取調官の傲慢、弁護士の怠慢――どれも「悪」と呼べるほどの悪ではないのに、いつの間にか一つの冤罪事件が完成していく、その過程が恐ろしい。加えて捜査や裁判のディテールが細かいので、資料として再読予定。